~量子コンピューターはどこまでマイニングに影響を与えるのか~
先日、ビットコインの価格が一時的に1BTC=7500ドルを下回り、約5カ月半ぶりの低水準をつけました。
この原因といわれているのが、10月23日に発表されたグーグルの量子コンピューターに関する報道です。グーグルは科学雑誌「ネイチャー」に掲載された論文で、同社の量子コンピューターが従来のコンピューターを大幅に上回り、「量子超越性」を達成したことを発表しました。
量子コンピューターとは何かについて、ここで詳細に説明することは避けますが、要するに量子力学の原理を利用して計算される次世代コンピューターのことで、これが実現すると、現時点の最先端のスーパーコンピューターよりもはるかに高速で情報処理が出来ると言われています。「量子超越性」とは、スーパーコンピューターをはじめとする現在の計算機では、とても長い時間がかかる計算処理を、量子コンピューターを用いれば極めて短時間で終わらせられることを示す言葉です。
ちなみに今回、グーグルが発表した量子コンピューターに関する論文によると、最先端のスーパーコンピューターでは1万年もかかる作業を、たったの3分20秒で解いたというのですから、いかに量子コンピューターが革新的なものか、お分かりいただけるかと思います。
10月23日にビットコインの価格が暴落したのは、この技術を用いることによって、ビットコインのセキュリティが破られるのではないかという懸念が広がったからです。量子コンピューターが実現すれば超高速の情報処理が可能になるため、ビットコインを守るパスワードに該当する秘密鍵を、公開情報から解読できる可能性が生じてきます。もしもそうなったら、ビットコインの安全性を担保しているセキュリティが破られることになり、結果、ビットコインの存在価値が大きく揺らぐことになります。
確かに、これだけの処理速度が現実のものになったとしたら、それを悪事に利用しようとする人も出てくるでしょう。ただ、この技術を悪用するのではなく、たとえばマイニングに用いた場合、どういうことになるでしょうか。
実は、この量子コンピューターの技術を使えば、マイニングなどで使われているアルゴリズムの一つPoS(プルーフ・オブ・ステーク)が改善されるという話があります。
マイニングにはPoSやPoW(プルーフ・オブ・ワーク)といった方式があり、ビットコインをはじめとする多くの仮想通貨(暗号資産)は、最初につくられたマイニングのアルゴリズムであるPoW方式を使っています。PoWによるマイニングは、より多くの計算処理をした人に対して、より多くのマイニング報酬が得られるというものです。しかし、PoW方式でマイニングする際には、何よりもマシンパワーが必要となります。他のマイニング参加者よりも、少しでも早く計算するためには、高性能なコンピューターが必要であることに加え、それを高速で24時間、ひたすら計算させるため、どうしても莫大な電力が必要でした。
したがって、一定の量をマイニングするに際して、どうしてもコストが割高になります。加えてサーバーも物凄い熱を持つようになります。かつてビットコインのマイニング工場が、モンゴルなど北の辺境地に建てられたのは、欧米先進諸国に比べて電気代が安く、かつ涼しいからです。
世界中でPoWによる仮想通貨(暗号資産)のマイニングが活発に行われると、その分だけ電力を消費しますので、地球環境の観点からもいかがなものかという声が出てくるようになりました。
そこで、PoWというアルゴリズムを用いたマイニングにつきまとうデメリットを解消するために考え出されたのが、PoSというアルゴリズムです。
PoSはPoWアルゴリズムによるマイニングと違い、より多くの仮想通貨(暗号資産)を長時間保有している人ほど、たくさんのマイニング報酬が得られます。これによって、PoWによるデメリットを解消しようとしました。PoSに移行すると、マイナーの権利は持ち分に応じて確率的に選択されることになりますので、今までの過度な競争が緩和されてネットワーク維持のために消費されている膨大な電気量が減り、環境的であると言われています。
一方で、少し専門的な話になりますが、識者の間では、持ち分に応じて確率的にマイナーを選択するというアルゴリズムが本当に公正に機能するのかという事が懸念されていました。その懸念を今回の量子コンピューターのパワーによって担保されるのではという見方が出ています。
今後、イーサリアム(ETH)もPoW方式からPoS方式へ移行予定であると発表されていますし、そうなってくるとPoS方式でのマイニングブームが来るかも知れません。実用はまだ先になると思いますが、この量子コンピューターの技術が仮想通貨(暗号資産)にどのような影響を与えるか今から楽しみですね。
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