「一帯一路」はデジタル人民元経済圏、中国の仮想敵国はあの国、あの人、あの通貨
ビットコインの価格が低迷していた2018年辺りから、「暗号資産(仮想通貨)でこれだけ儲かった」「次の暗号資産はこれだ!」といった投機的な内容よりも、「暗号資産の技術を利用して何かできないのか?」といった技術的な話が目立つようになってきた。この背景を否定的にみると、「暗号資産の価格が低下したので話すことが無くなった(ネタ不足)」と考えることができる一方、「そもそも暗号資産は投資対象としてだけを見るものではなく、その技術力を生かし既存の金融業界に一石を投じる存在だ」ともいうことができる。私は、「暗号資産への投資は紆余曲折あるものの、広がっていく」と強く考える一方、「その技術は既存の金融業界の枠には収まり切れない」とも思っている。つまり後者であり、とりわけ「デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)」や「ステーブルコイン」に注目している。
10月に入って、日本銀行(日銀)は、CBDCの実証実験を2021年度に実施すると発表した。「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」によると、実証実験は3段階あり、1段階目では発行や流通など通貨に必要な基本機能を検証し、システム上で実験環境をつくり電子上でのお金のやり取りで不具合が起きないかを調べるほか、発行残高や取引履歴を記録する方法なども検討するとのことだ。そして、2段階目では金利を付けたり、保有できる金額に上限を設定したりするなど通貨に求められる機能を試すとしている。最後の3段階目では、「パイロット実験」は必要に応じて実施し、ここで初めて民間の事業者や消費者が参加する形を検討するとのことだ。ただ、上記の方針では、「CBDCの発行計画はない」と示しており、実験は進めるけど、その内容を見てからではないと計画できないというスタンスである。
日銀が実証実験を来年度から行うと発表したほぼ同じタイミングで、お隣の中国からは深圳市において、3400店で使用できる200デジタル人民元(約3200円相当)を抽選で選ばれた市民5万人に配布したと報じられている。実証実験を来年から行う日本と比較すると2歩も3歩も進んでいるのが中国の状況である。デジタル人民元に関しては、中国人民銀行の易綱総裁は、2022年北京で行われる冬季オリンピックまでにデジタル人民元の開始を明言と伝わっているほか、既に中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行の4大銀行が、デジタル人民元のウォレット試験を実施している。詳細もある程度は報じられており、デジタル人民元は共通したアプリで管理されるのではなく、中国人民銀行から得たデジタル人民元を銀行やアリペイなどが利用者に提供するといった構造になるようだ。世界的に見ても、中国のデジタル人民元の進度は際立っている。
他国を見ると、スウェーデンの中央銀行であるスウェーデン国立銀行が、「e-krona(イークローナ)」の実証実験を行っているなど様々な動きはあるが、スウェーデンと中国では経済的な規模感が全く違う。スウェーデンは人口1000万人、国内総生産5,000億ドル(実は、国民一人あたりの国民総所得(GNI)でみると、世界屈指の高所得国なのだが、国力の規模感を比較したいのでここでは割愛)、中国は、人口14億人以上で、経済力は米国と覇権を争うレベルだ。なんとなくのイメージで恐縮だが、高所得国のスウェーデンが高尚な議論を行い、実証実験を行っているのに対して、中国は何かしら切迫感をもって実証実験を行っている印象の違いを感じる。
「国の威信」をかけてという言葉は、中国のためにあるのではないかと思うぐらいだ。デジタル人民元の導入時期に関して、2022年に行われる北京オリンピック・パラリンピック辺りと伝わっているが、五輪という国家イベントの前に導入するというのは説得力のあるスケジュールに思える。恐らくは2022年初頭ではなく、2021年の結構早い段階で使用できる地域を限定して開始するのではないかと考える。そして、その地域は、中国国内では、実証実験を行っている深圳周辺が対象となり、ほぼ同じタイミングで中国と経済的なつながりの深い国でも利用開始になると考える。その背景は「一帯一路」構想だ。
6割ほどとかなり高いキャッシュレス比率を誇る中国が、デジタル人民元構想を進める理由は、国内外の富裕層の資金管理が一番に考えられる。そもそも中国でビットコイン取引が禁止された背景は、富裕層特に華僑が、足がつきにくいビットコインの送金を好んだということがある。中央集権の象徴である中国がそのような自由を野放しにするわけはないのは明白だ。一方、2013年に習近平国家主席が提唱した「一帯一路」共同構築に関与する国は既に100か国を超えており、中国を中心とした巨大な経済圏はほぼできあがっている。「陸のシルクロード」「海のシルクロード」といわれる「一帯一路」経済圏は資金援助というプレッシャーで作り上げたのだが、その巨大な経済力を参加国に誇示し、デジタル人民元を決済通貨として用いるとなれば、結果として人民元の存在感は巨大となる。
少なく考えても日本円や英国ポンドを引き離し、ユーロをしのぐ存在となるだろう。ユーロをしのぐ存在ということになれば、当然見てくる通貨は米ドルである。仮想敵国を米国と掲げる中国は、貿易戦争で米国としのぎを削っているが、CBDCに関して米国は消極的なスタンスを示している。覇権通貨である米ドルに自信を持つ米国に、デジタル人民元で巨大な経済圏構築をもくろむ中国という構図だ。日銀のデジタル円の話も気にはなるが、中国がデジタル人民元で何をしたいか考えていることを想像する方が「大国の野望」的な楽しみがある。もっとも11月の米国大統領選挙の結果次第では、米中貿易戦争の方向性が大きく変わるかもしれない。少なくとも、米中貿易戦争というのは、習近平国家主席とトランプ大統領という個性的な役者がそろっていなければ成立しないような気がするので。
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