「言葉のイメージに騙されるな」
仮想通貨取引所について、どんなイメージを持つだろうか。
「東京証券取引所みたいに大きな建物に入っている」
「公的な存在であり、信頼できる」
「非常に厳しい規律でもって運営されている」
といったところだろうか。確かに、証券取引所であればそうだろう。兜町に行けば、大きな証券取引所が建てられていて、常に不正取引が行われていないかどうかを、大勢の取引所スタッフがチェックしている。
ある意味、ちょっと怖いところというイメージもあるが、だからこそ「株式会社」でありながらも公的な存在とみなされ、高い信頼性を維持できている。日本国内には福岡、名古屋、大阪、東京、札幌という5つの証券取引所が存在しており、将来的に統合の動きはあるかも知れないが、倒産することは、ほぼないと言って良い。
もし、取引所が倒産するようなことになるとしたら、それは日本の資本主義が崩壊する時だろう。そのくらい、証券取引所は重い存在と考えられている。
では、仮想通貨取引所はどうなのか。
日本にも複数の仮想通貨取引所はあるが、これを「取引所」といっても良いのかと、私は常々、疑問に思っている。あれは単なる両替商であり、一業者に過ぎないのではないかというのが、私の認識だ。
仮想通貨取引所は、一民間企業に過ぎない。
一応、金融庁から「仮想通貨交換業者」としての認可を受けることが、日本国内で仮想通貨取引所を開設するための要件になっており、「金融庁のお墨付きがあるから安心」などという声もあるが、それは違う。
そもそも、何をもって「安心」と言えるのだろうか。
旧聞に属する話だが、マウントゴックス、コインチェックなど、仮想通貨取引所から顧客資産が消失した事件は記憶に新しい。昨年末には韓国の仮想通貨取引所であるYoubitがハッカーの攻撃を受けて、同じように資産が消失。その結果、取引が停止しただけでなく、破産にまで至った。
証券取引所で、電子化された株券情報が外部に流出するなどという事件が起こったら、それこそ一国の経済の根幹さえ揺るがせかねない。だから、証券取引所はそういう事故が起こらないように、システム構築、セキュリティなどに莫大な投資を行っている。
仮想通貨取引所はカバー取引が出来ない
仮想通貨取引所の安全性については、もうひとつ指摘しておきたい点がある。
それは、カバー取引の問題だ。
たとえば、投資家が手持ちの円を売ってビットコインを買い付けに来たとする。この注文を受けた取引所は、ビットコイン売り・円買いのポジションを持つことになる。
このままビットコインの価格が高騰すると、仮想通貨取引所はビットコインの売りポジションを持っているのだから、利益を得た投資家とは逆に損失を被ることになる。
そのリスクを避けるため、仮想通貨取引所はビットコインの売りポジションを相殺するため、海外の仮想通貨取引所とビットコイン買い・円売りの取引を行う。
これがカバー取引だが、大きな問題がある。
それは、海外の仮想通貨取引所において、対円の通貨ペアが存在しないことだ。つまり、ビットコイン売り・円買いのポジションを持っていて、海外の取引所とビットコイン買い・円売りの取引を行いたくても、それが出来ないのが現状なのである。
カバーが出来なければ、そのポジションから発生するリスクを、仮想通貨取引所が負わなければならない。
しかも最近の取引所は、株式の信用取引やFX(外国為替証拠金取引)と同じように、仮想通貨についてもレバレッジをかけてポジションが持てるようにしているところがある。
国内の仮想通貨取引所だと、5~30倍のレバレッジを認めているようだが、投資家が高いレバレッジで取引をすれば、もちろん投資家も高いリスクを負うことになる。それと同時に取引のカウンターパーティーになる仮想通貨取引所も、過大なマーケットリスクを背負っている。
今後、懸念されるのは、仮想通貨のマーケットがボラタイルになった時、仮想通貨取引所が破綻に追い込まれるケースだ。
かつてはFX会社の中にも、カバー取引をしなかったばかりに、ボラタイルなマーケットに直面した結果、大損害を被り、退場を余儀なくされたところもあった。
こうした点を考えても、仮想通貨取引所は、「取引所」という言葉が持つイメージとは、かなりかけ離れた存在であることが分かるだろう。だから、取引所と思わず、単なる一両替商と考えるべきなのだ。
「ICO=IPOみたいなもの」は間違い
最後に、言葉が持つイメージという点では、ICOも取り上げておきたい。
よく、ICOを簡単に説明したいからなのか、「株式のIPOみたいなものです」という説明が目につくが、これもとんでもない話だ。
企業が株式をIPOするにあたっては、会社のコンプライアンス体制もしっかり整え、かつ上場取引所の厳しい審査を受けるなどの手順を踏む必要がある。株式を上場させるには、最短でも3年の期間は必要だ。
ところが、ICOはこの手の厳しい審査を行うことなく、ホワイトペーパー1枚にICOの目的を書くだけで、簡単に資金調達できる。それは資金調達の迅速性につながり、調達サイドからすれば極めて便利だが、仕組みの悪用も可能になる。
現状、私が見ている限り、ICOの9割方は詐欺、もしくはそれに極めて近いといっても良い。「ICOはIPOのようなもの」などというのは、現実を全く分かっていない連中の戯言でしかないのだ。
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