ステーブルコイン規制強化、FATFプレッシャーによる犯収法の観点が厄介
金融庁、ステーブルコインに規制
ビットコインを筆頭に暗号資産全体が5月以来の急落となり、ロングポジションの利用者がダメージを負っているなか、金融庁が法定通貨を裏付けとする暗号資産のステーブルコインに規制をかけると伝わっている。
今回、金融庁は、ステーブルコインの発行体を銀行と資金移動業者に限ったうえで、仲介業者も新たに監督対象にするとのことだ。2022年の通常国会に資金決済法改正案の提出をめざすとしており、マネー・ローンダリング(資金洗浄)対策も強化する。ステーブルコインの取引・管理を担う仲介業者を監督対象に加え、利用者の本人確認や、犯罪の疑いのある取引の報告など、犯罪収益移転防止法(犯収法)で定められた措置を求める。
FATFのプレッシャー
マネー・ローンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)は、2021年11月、暗号資産に関するガイダンスを更新しており、ステーブルコインのリスクを決定する主要な要素として、広範な市場への普及の可能性を示した。FATFは、各法域が立ち上げ前にステーブルコインプロジェクトを監視し、計画段階からAML(アンチ・マネー・ローンダリング)とCFT(テロ資金供与対策)のための措置を整備することを確実にするべきだと強調している。今回、金融庁がステーブルコインの規制に走った根本的な背景はFATFの方針である。欧米当局もFATFの方針に沿った動きを見せており、8月の第4次対日相互審査報告書にて「落第」評価をもらった日本にとって選択の余地はない。
JCBAがステーブルコインをわかりやすく整理
FATFのガイダンス発表後、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)(暗号資産の自主規制団体であるJVCEAとは別組織)が、11月15日、ステーブルコインの日本国内における取扱いを目指して法的整理に関する研究を行うステーブルコイン部会にて、「日本におけるステーブルコインの制度設計の在り方について」を公表した。JCBAは、日本において不明瞭であったステーブルコインの法的課題を整理し、その分類に応じた適切なAML・CFT対策、分別管理、安全管理を備えた法的枠組みを設けることでその取扱い実現を目指すとしている。この資料は非常にわかりやすく整理されており、ステーブルコインの枠組み・考え方及び課題を知る上で大変参考になる。
払戻約束型とプリカ型の2種類
一方、金融庁におけるステーブルコインに関する表現は、11月1日に公表された「事務局説明資料」で「いわゆるステーブルコインは、特定の資産の価値に連動するものである。連動する資産の種類等によって、その性格は異なると考えられる」と表現しており、
(1)法定通貨と連動した価格(例:1コイン=1円)で発行され、発行額と同額での償還を約するもの(こうしたステーブルコインは、資金決済法上、「通貨建資産」とされ、「暗号資産」から除外)の発行・移転は、為替取引(「為替取引」について法令上定義はないが、最高裁決定によると、「為替取引を行うこと」とは「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」とされている)に該当し得ることを踏まえ、銀行業免許・資金移動業登録を受けなければ行うことができないと解される。
(2)上記以外のものは、価値が連動するものや、償還合意の有無及びその内容に応じて、その性格を個別判断(有価証券又は暗号資産に該当し得る)。
と説明している。正直、当局の資料は法令解釈通りのためわかりにくいので、11月15日に発表されたJCBAの資料を見ると、
(1)払戻約束型ステーブルコイン(発行者による制限の中で流通しているJ-COINやさるぼぼBANK、不特定の間で流通しているUSDC、USDTなど)
(2)プリカ型ステーブルコイン(発行者による制限の中で流通しているさるぼぼPay、PayPayマネーライトなど、不特定の間で流通しているJPYC)
とステーブルコインを大きく二種類に分類している。
JPYCに妙な横やり入る可能性
恐らく今回の金融庁が指摘しているステーブルコインは、前者の払戻約束型ステーブルコインの「不特定の間で流通している」パターンを指しており、J-COINや、前払式支払手段であるプリカ型ステーブルコインは対象外と思われる。ただ、「不特定の間で流通している」というポイントは、FATFの強烈なプレッシャーによって、金融庁から犯収法に則ったAML・CFTの突っ込みが入りそうだ。6日に銀座松坂屋で利用スタートしたばかりのJPYCが「犯収法におけるKYCを行っていない」という観点で当局から何か言われないか心配ではある。JPYCの年末年始の利用状況は、金融庁、日本銀行にとってもデジタル円の今後の議論において貴重なデータになるはずなので、妙な横やりは入れないでほしい。
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