1. 直近1週間のBTC相場
直近1週間(9/11−9/17)のビットコイン円相場は、週初308.4万円で寄り付いた後、①ロシア・ウクライナを巡る地政学的リスクの後退(ロシアがウクライナ東部ハリコフ州のオスキル川以西の州全域から軍の撤退を命じたとの報道)や、②米インフレピークアウト期待の高まり(米金利低下→米ドル売り→ビットコイン上昇)、③上記①②を背景とした世界的なリスクオン再開(市場心理改善→株高→リスクアセット上昇)、④イーサリアムの大型アップグレード「The Merge」を控えた期待感(暗号資産市場全体に広がる楽観ムード)、⑤投資家による大規模ショートカバー(対ドルの節目22000ドル突破に伴う仕掛け的なビットコイン買い)が支援材料となり、週央にかけて、8/17以来、約1ヵ月ぶり高値となる323.1万円まで上昇しました。
しかし、買い一巡後に伸び悩むと、⑥米8月消費者物価指数及び米8月消費者物価コア指数の市場予想を大幅に上回るサプライズを示したこと(インフレピークアウト期待後退)や、⑦上記⑥を背景とした米長期金利の急上昇、⑧世界的なリスクオフ再開(次回FOMCでの100bp利上げ観測台頭→リスクアセット下落→ビットコイン下落)、⑨対円の節目300.0万円や、対ドルの節目20000ドルを割り込んだことに伴う失望売り、⑩ドルインデックスの堅調推移(資産現金化需要のドル買い再開→米ドルと逆相関性の強いビットコインに下押し圧力)、⑪テクニカル的な地合いの弱さ、⑫オプション市場のダウンサイドを織り込む動き(インプライドボラティリティの上昇とリスクリバーサルのBTCプットオーバー拡大の組み合わせ)、⑬The Merge終了に伴う材料出尽くし感(sell the fact)が重石となり、週末にかけて、9/8以来、約1週間ぶり安値となる276.8万円まで下落しました。引けにかけて小反発するも戻りは鈍く、本稿執筆時点(日本時間9/17午前3時30分現在)では、278.3万円前後で推移しております。
以下、テクニカル分析の観点でビットコイン円相場の先行きを考察いたします。
2. 移動平均線(テクニカル分析)
ビットコイン円相場の急落を受けて、ローソク足は、90日EMA、90日SMA、21日EMA、21日SMAを全て下抜けしました。SMAベース(単純移動平均線)、EMAベース(指数平滑移動委平均線)共に、強い売りシグナルを示唆する弱気のパーフェクトオーダーが継続する中、テクニカル的に見て、地合いは弱いと判断できます。
3. ボリンジャーバンド(テクニカル分析)
ビットコイン円相場の急落を受けて、ローソク足はボリンジャーミッドバンドを下抜けしました。ミッドバンドの傾きも横ばいから右肩下がりの形状にシフトするなど、テクニカル的に見て地合いの悪化が意識されます。週前半まで続いていた強気のバンドウォークも消失しており、来週はボラティリティの上昇とそれに伴うビットコイン続落に警戒が必要でしょう。
4. 一目均衡表(テクニカル分析)
ビットコイン円相場の急落を受けて、ローソク足は一目均衡表雲上限および雲下限、転換線および基準線の全てを下抜けしました。既に強い売りシグナルを示唆する三役逆転の3つの成立条件の内、2つ(ローソク足の雲下限下抜けと、遅行線の21日前のローソク足下抜け)を達成しているため、来週は残る1つの条件である転換線と基準線のデッドクロスに注目が集まります。当方試算では来週半ば以降に転換線と基準線のデッドクロスが実現する可能性が高いと見ていることから、来週は週央から週後半にかけて、地合いが一段と悪化するシナリオに警戒が必要でしょう。
5. RSI(テクニカル分析)
オシレータ系インジケータのRSI(Relative Strength Index)は70%近辺に接近した後、40%台まで急低下しましたが、引き続き中立圏内(30%−70%ゾーン)での上下動に留まっています(買われ過ぎ・売られ過ぎ共に過熱感が見られず)。ローソク足のトレンドとRSIのトレンドが逆行するダイバージェンスも発生しておらず、RSIから相場の方向性を読み解くことが出来ない状態が続いております。
6. まとめ
ビットコイン円相場は9/13に記録した直近高値323.1万円(8/17以来、約1ヵ月ぶり高値圏)をトップに反落に転じると、週末にかけて、約1週間ぶり安値となる276.8万円まで急落しました。この間、ローソク足が主要サポートポイント(対円の節目300.0万円や対ドルの節目20000ドル、一目均衡表雲上限及び雲下限、一目均衡表転換線や基準線、90日移動平均線や21日移動平均線)を軒並み下抜けした他、強い売りシグナルを示唆する弱気のパーフェクトオーダーも継続するなど、テクニカル的に見て、地合いは弱いと判断できます。
また、ファンダメンタルズ的に見ても、①米FRBによるタカ派傾斜観測(今週発表された米CPIや米PPIの結果を受けて、米長期金利が急上昇)や、②上記①を背景としたグローバルなリスク回避ムード(インフレピークアウト期待後退→米金利先高観再燃→市場心理悪化→株安→リスクアセット下落→ビットコイン下落)、③米政府・米当局によるドル高容認スタンス(先週は複数の米当局者よりインフレ抑制に繋がるドル高を積極的に容認する発言あり→米ドルと逆相関性の強いビットコインに下押し圧力)、④相次ぐセキュリティインシデントに端を発した世界的な規制強化の思惑、⑤エネルギー危機発生に伴う「プルーフ・オブ・ワーク(POW)」採用通貨への逆風継続(時価総額第2位のイーサリアムが今週、マイニング方式を「プルーフ・オブ・ワーク(POW)」から「プルーフ・オブ・ステーク(POS)」に移行させる大型アップグレード「The Merge」を実行したため、POWを採用し続ける時価総額第1位のビットコインに対する批判が今後一段と高まる恐れ→BTCドミナンスの低下圧力)、⑥暗号資産市場に対する投資家の関心低下(ボラティリティが低迷する暗号資産市場からボラティリティが高い外国為替市場や株式市場に投資家の興味がシフト)など、ビットコイン円相場の下落を連想させる材料が揃っています。
以上を踏まえ、当方では引き続き、短期的にも中長期的にも、ビットコイン円相場の続落をメインシナリオとして予想いたします。尚、来週は9/22日本時間3時に予定されている米FOMCで連続大幅利上げが決定されると共に、同時に発表されるドットチャートや、同3時30分から始まるパウエルFRB議長記者会見でタカ派的なスタンスが示されると予測されることから、米FOMC通過後は、米長期金利急上昇→リスクオフ再開→ビットコイン下落の波及経路に注意が必要と考えられます。状況次第では6/18に記録した直近安値237.9万円を下抜け、年初来安値を更新するシナリオも想定されるため、来週は週後半以降のビットコイン急落に特に警戒が必要でしょう。尚、オプション市場で取引されている1週間物インプライドボラティリティ67.50%(スポット前提278.3万円)で計算した向こう1週間のビットコイン円想定レンジは252.3万円−304.3万円となっております。
来週の予想レンジ(BTCJPY): 235.0万円−305.0万円
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