「Hydra」閉鎖後も、世界のダークネット市場の覇権はロシアが握る
米国のブロックチェーン分析企業「Chainalysis」が「The 2023 Crypto Crime Report(2023年暗号資産犯罪動向調査レポート)」を発表した。このレポートは簡単な登録を行うと無料で日本語版もダウンロード可能なため、私のようなドメスティックな暗号資産オタクもすらすら読めるのが非常に嬉しい。
北朝鮮系のLazarusのハッキング金額は推定17億ドル
その中身は非常に興味深く、北朝鮮系サイバー犯罪シンジケート「Lazarus Group」が、過去数年間、群を抜いて盛んに活動しており、2022年だけでも彼らが起因したハッキングによって、推定17億ドル(2200億円相当)の暗号資産を盗み出した等の内容が事細かに記載されている。分量は100ページほどでかなり濃い内容のため、時間が過ぎることも忘れて読んでしまうので忙しい人は注意してほしい。
私は昨年、3月2日の「ロシアへの制裁措置はダークネットマーケットの成長につながる?」、4月25日の「「Hydra」閉鎖、金融制裁はダークネット需要を生み出す源泉」と二回、ダークネット(ダークウェブという表現もあるが、ここではダークネットに統一)を紹介してきた。そこで紹介した当時世界最大のダークネット「Hydra」がどれだけの規模を誇っていたのかもこのレポートに記載されている。ダークネットに関する記載だけご紹介したい。
暗号資産ベースのダークネット決済は増加?
本レポートの「ダークネットマーケット」の項目によると、2022年のダークネット及びfraud shop(盗難された個人情報やクレジットカード、アカウント情報などを販売するサービスカテゴリを指す)の収益は15億ドルと前年の31億ドルと比べると半分以下である。これは、ダークネットへの取り締まりが強化されたという前向きな話ではなく、ビットコインなど暗号資産価格が2021年と比べて半値以下となったことが主な要因だろう。つまり法定通貨ベースでは減少しても、決済に使用された暗号資産ベースでは増加したと考える。
昨年4月に当時世界最大だったダークネットの「Hydra」は、法執行機関によって閉鎖に追い込まれた。ただ、その後、同じくロシアを拠点とするダークネット「Mega Darknet Market」「Blacksprut Market」「OMG!OMG!Market」らに顧客は受け継がれており、ロシア拠点のダークネットは依然として世界の8割強を占めているとのことだ。「Hydra」はロシアを拠点に、ドラッグの販売とマネーロンダリングサービスを提供。きめ細かな顧客対応を武器に世界最大のマーケットを作り上げた。そのノウハウが、これらロシア系のダークネットに移築されただけで、「Hydra」閉鎖もダークネットマーケット縮小にはつながっていないというのが現実だ。
やはり昨年2月のウクライナ侵攻に対するロシアへの経済制裁は、ロシアのダークネットマーケットを発展させる要因となったと考える。2023年は、欧米金融システムへの不安から、暗号資産への関心が強まっている。マネーロンダリング等の規制は強化されているが、取り締まる側と取り締まられる側のいたちごっこは続く。
伝説のダークネット「シルクロード」
補足だが、4月中旬、米国で闇サイトから不正にビットコインを入手した人物が懲役1年1日の判決を受けたというニュースを見た。この闇サイトは、2011年に誕生し、2021年に映画化もされた史上最大規模「シルクロード」である。「シルクロード」は2013年に閉鎖され、運営者のロス・ウルブリヒトは現在、仮釈放無しの終身刑に服している。今回、懲役刑の判決を受けたジェームズ容疑者は、2012年、この「シルクロード」から5万1680枚のビットコインを盗んだとのことだ。2012年1月時点で約4ドルなので当時20万ドルほどのビットコインは、2021年11月に逮捕された時、ビットコインは6万ドル台まで上昇していたことから31億ドルに膨れ上がっていた。現時点の金額は凄まじいが、闇サイトからハッキングした点と当時の金額が20万ドルほどだったことなどから、1年1日という懲役刑となったのだろう。ダークネットのニュースを調べているタイミングで、「シルクロード」という伝説的なダークネットの名前を見かけたのでつい懐かしく思ってしまった。
「(犯罪ではない)世のため、人のため」に、「Hydra」運営者(不明)や、ジェームズ容疑者やロス・ウルブリヒトの頭脳が使われていれば、よりイノベーティブなサービスを構築することができたのかもしれない。
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