「このままだと日本から富が流出する」
仮想通貨に対する、各国金融当局による締め付けが、かなり厳しくなっている。
あの金融立国として知られているシンガポールでさえ、さまざまな形で仮想通貨に対する圧力を強めているという話が、漏れ伝わってくる。恐らく、これは事実だと思うが、シンガポールの金融当局が、在シンガポールの銀行など金融機関を呼びつけ、仮想通貨に対する送金、あるいはシンガポール人に仮想通貨を買わせるような仕組みを禁じると申し伝えたという。ただ、シンガポールは金融立国なので、仮想通貨のような先進的技術を用いたものに対して、否定的なスタンスを取るのは非常にまずいため、どうやら内々に金融機関の担当部署を呼び出して申し伝えたようだが、あれだけ先進的なシンガポールの金融当局でさえ、仮想通貨に対してはある種の危機感を抱いているということなのかも知れない。
ましてや日本の金融当局は、仮想通貨を積極的に受け入れていくことなど、はなから頭にないと思う。以前、主要銀行にヒアリングしたところ、多くの銀行から「口座を開設するのは結構ですが、その口座を通じて、少しでも仮想通貨に関連する業務に関わるのは、基本的に認められませんよ」と言われた。
でも、そうなると困るのは仮想通貨取引所だろう。仮想通貨を売買したいという投資家が仮想通貨取引所の指定する口座に入金しようとしても、銀行が仮想通貨取引所の口座を作らせなかったら、入金そのものが出来なくなってしまう。
もちろん、すでに金融庁に登録済みの仮想通貨取引所に関しては、ほぼ問題なく銀行口座を開設できるはずだが、未登録業者に関しては、この部分のハードルが相当高そうだ。
また、登録業者が振り込み口座などで指定している取引銀行名を見ると、りそな銀行、あるいは住信SBIネット銀行が中心になっている。ここがちょっと微妙だ。というのも、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行といった大手銀行がほとんど入っていないからだ。ここには何らかの形で、大人の忖度が含まれているような気がする。ありていに言ってしまえば、りそな銀行や住信SBIネット銀行に関しては、仮想通貨取引所とビジネス上の関係を持ったとしても、金融庁としてはそれほど問題視する気もないが、三菱UFJ銀行などの大手行がこの分野に深く関与することは、やはり許容できないと考えているように見える。
このように、金融当局が仮想通貨取引に対して厳しいプレッシャーを与えている限り、日本国内で仮想通貨がどんどん普及していくことにはならないと思う。
もちろん、仮想通貨が投機的な側面を持つ限り、市場参加者が全くのゼロになることはない。
ただ、日本国内の仮想通貨取引所を通じてトレードをする投資家は、どんどん小ぶりになっていくのではないか。少なくとも、市場支配力を持つほどの、大きな玉を振り回せるような投資家は、すでに日本国内にはいないと思う。
それを証明するような数字がある。
いささか旧聞に属する話で恐縮だが、一般社団法人日本仮想通貨交換業協会が4月に公表した「仮想通貨取引についての現状報告」によると、国内仮想通貨取引所の預かり資産額は仮想通貨も含めて以下のようになった。
10万円未満・・・・・・77.16%
10万円以上50万円未満・・・・・・14.20%
50万円以上100万円未満・・・・・・3.78%
100万円以上500万円未満・・・・・・4.00%
500万円以上1000万円未満・・・・・・0.50%
1000万円以上1億円未満・・・・・・0.34%
1億円以上・・・・・・0.02%
さて、この数字をみて違和感を覚えないだろうか。正直、私はおかしいと思う。これは2018年3月時点の数字だ。あれだけ「億り人」が盛んに喧伝されていた時期なのに、1億円以上の預かり資産を持っている人が、全体のうち0.02%しかいないのである。口座数にして、たったの268口座だ。
これは推測にすぎないが、恐らく、日本から逃げたのだと思う。海外の仮想通貨取引所のなかには、KYC(顧客確認)を取らなくても口座を開設できるところがある。自分の仮想通貨を、国内の仮想通貨取引所の口座から引き出してコールドウォレットに入れ、新たに作った海外の仮想通貨取引所の口座に移してしまえば、その行方を補足することが出来なくなる。それこそDEXのように、非中央集権的取引所のシステムが本格的に稼働すれば、KYCを取らずとも、どこででも仮想通貨の取引ができるようになってしまうので、ますます仮想通貨の行方を追うことが困難になる。
なぜ日本から億り人が逃げたのか。それはもう日本国内の仮想通貨取引所で取引する魅力がないからだろう。しかも、利益が雑所得扱いになるため、リスクを取って得た利益の半分近くが、税金で持っていかれてしまう。これでは割に合わないと考えて、海外に逃げ出す投資家が増えるのは当然のことだ。
このままでは、日本の仮想通貨取引所に残っている投資家は、小銭稼ぎの小口投資家だけになってしまう。仮想通貨を、金融秩序を乱すものという程度の理解で締め付ければ締め付けるほど、日本国内の富が海外に流出するという事実を、日本の金融当局や税当局は認識するべきではないだろうか。
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