仮想通貨(暗号資産)遍歴 第4回-田上智裕さん-

第4回のインタビューは、ブロックチェーンの学習サービスを運営している田上智裕さんです。

仮想通貨(暗号資産)遍歴 第4回-田上智裕さん-

仮想通貨(暗号資産)遍歴 第4回

仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーン業界で著名な方々の仮想通貨(暗号資産)遍歴をお聞きしたインタビュー記事を掲載します。第4回のインタビューは、ブロックチェーンの学習サービスを運営している田上智裕さんです。

田上智裕
株式会社techtec CEO
経歴
学生時代にチームラボ株式会社でアプリ開発やCNET Japan編集部でのメディア運営を経験。その後、リクルートホールディングスに入社しブロックチェーンのR&Dを担当。2018年1月に独立しtechtec,Inc.を設立。ライターとメディアのマッチングプラットフォーム「techtec」と、ブロックチェーンの学習サービス「PoL(ポル)」を運営。

仮想通貨(暗号資産)遍歴 第4回

--まず、田上さんとビットコインとの出会いについて教えてください。

最初はですね、2013年で当時まだ大学生でした。大学が経済学部だったので、経済のあり方「なんでこれがお金なんだろう」みたいなことを考えていた時に、マウントゴックスの事件があってビットコインを知り、「ちょっと買ってみようかな」と思ったのがきっかけです。ただ、ビットコインを買ったのはマウントゴックスではなく、Kraken(クラケン)(※)で買いました。Krakenでビットコインを買っている人は珍しくて、あまりいないと思います。なので、ビットコインとの出会いはKrakenですね。

※Kraken:2011年に米サンフランシスコを拠点に設立され、2013年に取引サービスを開始した仮想通貨(暗号資産)取引所の大手。2014年にKrakenは、マウントゴックス債権者の破綻処理を支援するための協力を発表した。

--当時のKrakenでは、どのような手続きでビットコインが買えたのでしょうか?

えっと、全然覚えてないんですよ、ホントに。(笑)
当時、KYC(Know Your Customer:本人確認の手続き)はまだなかったので、銀行口座と連携させて、Krakenのビットコイン販売所で買いました。もちろん当時、『ウォレット』も知らなかったので、Krakenに保存したままでした。なので、GOX(※)はしてないです。(笑)
ただ、私は『The DAO 事件(※)』の被害者です。(笑)『The DAO 事件』に引っかかっている人って、意外といないんですよね。

※GOXする:マウントゴックス事件から生まれた言葉で、保管先(取引所/交換所)に預けていた仮想通貨(暗号資産)が盗まれるなどの事件によって、手元に返ってこなくなることの俗称。

※The DAO事件:2016年6月、約360万ETH(当時約50-60億円相当)がハッキングを受けて盗難・流出した事件。『The DAO(サービス名称)』とは、DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)と呼ばれるシステムを利用した「自立分散型投資ファンド」のサービスで、投資家は『The DAO』のトークンである『DAO Token』をEthereum(ETH)で購入していた。Ethereumネットワーク上に記述された『The DAO』のスマートコントラクトの脆弱性が原因で、そのEthereum(ETH)が被害にあった。従って『The DAO』のシステム問題に起因した事件であり、この事件はEthereum(ETH)のプログラムに問題があったわけではない。
しかし、この盗難・流出の記録に関して「取り消す派」と「取り消さない派」とに意見が分かれたため、Ethereum(ETH)はハードフォークが実施され、「取り消す派」=Ethereum(ETH)と、「取り消さない派」=Ethereum Classic(ETC)とに分岐した。

--ビットコインを買うことに怖さはなかったですか?

学生でしたから少額だったので、「怖い」というのはなくて「興味」の方が強かったですね。勉強を兼ねてと言った感じでした。ビットコインを持ってからは、トレードしたりもしました。最初に体験した半減期(※)(第2回:2016年7月)は結構感動しましたね。みんなで集まって、半減期を祝う会ですとか。
あと、私は誕生日が「ピザデイ」(※)なので、毎年5月22日の自分の誕生日にピザを食べるという行事を、2014年から一人でやっています。(笑) ビットコインに主役を奪われて、誰も私を祝ってくれないです。(笑)

※半減期:マイニングの報酬に使われる新規発行のビットコインが半分に減少/減額される時期。「21万ブロックが生成されるごと」と決められているため、約4年(1ブロック=約10分)ごとに実施される。
※ピザデイ:2010年5月22日、ピザ2枚の購入に10,000BTCが支払われたのが、初めてのビットコイン決済だったことから、毎年5月22日は「ビットコイン・ピザデイ」と呼ばれている。

--ビットコインを好きになった学生が、独立して今はブロックチェーンをビジネスになさってますが、それまでどのような経緯がありましたか?

ブロックチェーンを知ったのは、ビットコインを知ってから半年か1年ぐらい経ってからです。私はテクノロジーの方が好きなので、ブロックチェーンに興味がどんどん向かっていきました。ブロックチェーンというのがあるんだって知ってから、「これどうやって動いているんだろう」って調べれば調べるほど、どんどん面白くなっていって、際限がない、終わりがないので今でもやってるって感じですね。


--その当時は、何を見て調べていましたか?

まずは、論文ですね。論文は絶対最初です。
論文を読んで、bitcoin.orgサイトを見たり、そういう情報の集め方でしたね。あとは、ソースがなくて…日本語だと特になかったので、例えばロジャー・バーのTwitterでの発言などですね。その頃、(藤本)真衣さんが、ちょっとずつ発信し出していたころで、後は杉井靖典(カレンシーポート株式会社)さん、日向理彦(フレセッツ株式会社)さんといった古参の方々の発言ですね。あとは、大石哲之(ビットコイン研究所)さんの存在が大きかったですね。大石さんの本を読んだりしました。

--ビットコイン/ブロックチェーンのどこに一番興味を持ちましたか?

ベタではあるんですけれども、経済的なインセンティブ『マイニング』ですね。
管理者のいない状態で、「どうやって、この仕組みが回っているんだろう?」ってところに、報酬としてのビットコインが入ってきたのは面白いですよね。大学が経済学部だったので、経済合理性というか、インセンティブ設計がすごいおもしろいなと思い、最初はそこに興味を持ちました。

--それらを調べている頃に大学を卒業、リクルートHDに入社なさったわけですが、ビットコイン/ブロックチェーンと、リクルートHDには何か関連性があったのですか?

その頃、ブロックチェーンは私の趣味の範囲を超えてはいなかったんです。
リクルートに入社したのは、元々「起業しよう!」と思っていたので、「起業家といえばリクルート」というのが、当時のイメージとしてありました。(笑) なので、それがリクルートに入ろうと思った理由で、そこにブロックチェーンは絡んでこないんです。

リクルート入社前、まだ内定者の時にfacebookなどにブロックチェーンの書き込みをしていたら、それを見たリクルートの役員から「お前、ブロックチェーンに詳しいのか?」みたいな感じで言われました。そして、元々はリクルートでマーケティングをやる予定だったのですが、なぜかいきなり、入社数か月前にもかかわらずブロックチェーン担当に決まったんです。それから仕事でブロックチェーンに携わることになりました。
秋山さんと出会うきっかけになった、私が登壇したイベント(※)も、一応リクルートの事業として「とりあえずやってみよう!」ということでやっていたんです。懐かしいですよね。あのイベントも一回だけで、あの後すぐにリクルート辞めてしまいました。(笑)

※2017年4月25日開催:リクルートホールディングス主催【ビットコイン初心者セミナー -ビットコインを手に入れるには!?-】

--その頃と今とでは何が変わってきたと体感されていますか?

変わった部分と変わらない部分がありますね。私の中で変わらない部分は、「この業界と言えば、この人だよね!」って人が変わってないです。変わった部分で言うと、新しい人が増えましたね。なので、業界が「良くなっているか?」と言われると怪しいところはあるんですけど、「成長しているか?」と言われると成長しているのかなと思います。
着実に仮想通貨(暗号資産)・ブロックチェーンが使われていくというケースは増えているんじゃないかなとは感じますね。あとは、「ブロックチェーンって何?」や「Why Blockchain?」って聞かれた時に、2015-16年頃は自分でまだわかっていなかったんですけど、今なら自分の中ではかなりクリアになってきているので、そういう部分では、最近さらに楽しくなってきましたね。

--リクルートには、どのくらい在籍されていたのですか?

リクルートには1年5カ月ですね。元々「2年かな」と思っていたんです。3年いると3年以上いてしまう気がしていて、結構いいポジションももらえると思っていたので。なので2年で辞めようと思っていて、きっかけになったのは、同期がどんどん辞めて起業し始めたというのがありました。
あとは、ブロックチェーンがここで出てくるのですが、リクルートにいてブロックチェーン・ビジネスには繋がらないなと感じました。リクルートのビジネスは『情報集約型』で、いかに社内でデータベースを持つかなんですね。逆にブロックチェーンは『情報分散技術』なので、リクルートは自社をディスラプション(破壊)する技術を社内でやるというのは結構厳しいと感じました。そうすると、投資の域を超えないなということになるわけですが、私はやっぱりプロダクト(製品・商品)を作っていきたいっていうのがありましたね。

--リクルートを辞められてから、どのような考えでビジネスを手掛けられたのですか?

最初は、ブロックチェーンそのもの、プロトコル(規定・議定・仕様・手順書)を作っていきたいと思っていたんです。けれども、なかなかマネタイズ(収益化)が難しいですし、ポッと出のスタートアップでは体力なさすぎるなというのがありました。
そして、ブロックチェーンは詳しい人と詳しくない人とのギャップが激しすぎると感じ始めました。古参の人達は、めちゃくちゃ詳しいけれども、最近入ってきた人たちは全然わからないという。なので、そこのギャップを埋めるのに何か必要だなと思って「学習サービスをやろう!」って決めました。それが今やっている、『PoL(ポル)』っていうサービスの始まりです。

--その『PoL』について詳しく教えてもらえますか?

はい、『PoL』というのはブロックチェーンの学習サービスです。
日本でも、いくつか学習サービスが出てきていますが、ビジネス向きに作っているところはあまりないと思われます。
リクルートにいた時に一番感じた課題が、ブロックチェーンは結構「エンジニア・ファースト」な技術なので、色々な組織の中でエンジニアが一番興味を持って動くと思います。しかし結局、既存事業の意思決定者はビジネス側の人間なので、エンジニアがプレゼンしても、ビジネス側がわかってないことが多い。意思決定者の方は、「で、何ができるの?」としか興味を持たないんですね。
どれだけ具体的なことを説明しても、なかなか伝わらないってことがあったので、じゃあまずビジネス側を育成、教育していく必要があるなということで、ビジネス向けに『PoL』を作りました。
なので、そこはどんどん教育して、啓蒙していくことができれば、どんどん需要も出てくるんじゃないかと、今は考えています。最近ユーザー数も、めちゃめちゃ伸びていて、やっと認知されてきたかなと思えるようなところではありますね。

今月13日にリリースをさせていただいたのが、学習するほど獲得できる「PoLトークン」です。PoLは「Proof of Learning」の略で、「学習量による知識の証明」と定義しています。学習するほどPoLトークンを獲得できるため、PoLトークンの保有量が多い人ほど、学習量が多いと定義付けることができると考えています。PoLトークンの獲得は、PoLで学習できる全てのカリキュラムが対象であり、カリキュラムの難易度やテストのスコアによって獲得量が変化する仕組みを取り入れています。このPoLトークンは、頑張った人が頑張った分だけ報われる社会の実現に向けた第一歩です。

よく、「それトークン必要?」とか「それブロックチェーン必要?」といった事例が散見されますが、学習履歴に透明性を持たせ、それを改ざんされない状態で管理していくには、間違いなくブロックチェーンが必要であり、可視化するためにトークンが必要だと思っています。私は、「学習する」という行動には、大きな価値があると考えています。その価値をユーザーに還元するためにも、トークンは欠かせない要素なのです。

--先日リリース出されていましたが、元・税務大学校教育官である安河内誠さんは、『PoL』の講師になるのですか?

安河内さんは、『共同制作』になります。今後オンライン学習だけでなく、オフラインで勉強会とか開催した際には、安河内さんに来ていただくとかは考えていまして、その時は『講師』という呼び名になりますね。

--仮想通貨(暗号資産)もしくはブロックチェーンに対して、どのような未来像を描いていますか?

『仮想通貨(暗号資産)』の方で言いますと、「興味ない」と言ってしまっては何ですが、テクノロジーであるブロックチェーンの方に、まずは興味があります。

ブロックチェーンに関して言えば、やっぱり事例をどんどん作っていく必要があると思っています。日本人は特にゼロから生み出すのが下手なので、過去から学んでいくという意味で事例が必要ですね。ブロックチェーンは「インターネット以来の衝撃」とよく言われますが、「インターネットの上に乗ってくる」というよりも、インターネットとはまた別の産業を作るのかなと思っています。そういう意味では、10年、20年の戦いにはなるとは思うのですが、ただ間違いなくブロックチェーンがないと「これってどういう社会だったっけ?」って、今でいう「インターネットがない世界って考えられない」みたいな社会が、ブロックチェーンでも訪れるのではないかなと思っています。

『学習サービス』をやっているというのもありますが、今、特に注目しているのは『学位の詐称』ですとか、『研究データの不正』とかの問題に対するブロックチェーンの活用について、かなり興味があって調査とかも実際しています。

--今、まだ仮想通貨(暗号資産)を持っていない人や、ブロックチェーンについて知らない…特に若い人に対して一言お願いします。

まさに、『PoL』を使ってもらいたいです。(笑)
仮想通貨(暗号資産)に関しては色々あったので、『怪しい』『怖い』というイメージは付きものだと思います。ただ、仮想通貨(暗号資産)そのものには何も『害』といいますか『問題』はなくて、ただ残念ながら使っていた人たちは損失が出たりして大変だったということがありました。

ブロックチェーンという技術は本当に面白くて、今後未来を変えていく…というより、支えていく技術です。技術そのものに関してはすごく面白い部分はあると思いますので、たくさん調べてみてもらいたいと思います。もちろん、『PoL』をやってみてもらえたらいいなと思います。(笑)まず、この業界にどんどん入ってきて欲しいというのはありますね。
この業界は優秀な人が多くて、バックグランドが金融の人が多かったりするので、若手からすると勉強になると思います。どんどん良い刺激を受けることができるので、ぜひ若いうちからこの業界に入ってきてもらいたいなということを、常に考えてますね。

-この業界内では、いま田上さんが一番若手ですかね。

そうですね…最近は学生が増えてきているんですけど、事業としてやっている人はまだまだ少ないですね。
カカクコムの『仮想通貨羅針盤』のように、ブランド力があるメディアが、どんどん増えていって欲しいなと思いますね。「仮想通貨メディア」っていうだけでなんか怪しいと…実際怪しいところがたくさんあるので。(笑)そのためには正しい情報をしっかり発信できる人を増やしていく必要がある…ということで、是非『PoL』をやってくださいと。(笑)


--田上さんと同世代の人たちや周りでビットコインを持っている人は多いですか?

持っているか?持っていないか?…0か1かでいうと「1」で持ってはいるのですが、それが100持っているかと言うと、全然持ってはいないですね。持っていても、数十万円ぐらいの感じです。そういう意味では、まだまだこれからですね。

社会人4~5年経ってくると、ちょっとお金持ち出して投資とか始めだしますね。ただ「上がった!下がった!」って話は「本質はそこじゃないよね」とは思いつつ、やっぱりそこは変わらないんだろうなって諦めてます。(笑) 最近のように上がり始めると、急に連絡が来始めるとか、みんな機嫌が良くなったります。(笑) あれっ、ちょっとなんかニコニコしているなって。ただ、「あっ、あなた持ってるの!?」って人が増えましたね、特に若い女性の方や主婦の方はかなり増えたという印象です。


--では最後に、田上さんにとって「ビットコインとは?」もしくは「ブロックチェーンとは?」何か教えてください。

かっこいいこと言いたいですね。(笑)
では、「ブロックチェーンとは!」ということで、20代30代を丸ごと注ぎ込んで挑戦する価値のある分野であると考えています。自分たちが市場を作っている、自分たちが業界に貢献している、そういった圧倒的なやりがいに溢れていて、毎日ワクワクしていますね。ブロックチェーンがマスアダプトされた未来が実現するとどうなるんだろうって、考えるだけでも楽しいですし、投資する価値は大きくあるのではないかと思います。なので、今の私にとっては、ブロックチェーンは人生そのものなんですよね。

本日はありがとうございました。ブロックチェーンの未来を担う田上さんの更なるご活躍を楽しみにしています。

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