仮想通貨(暗号資産)遍歴 第5回-今井崇也さん- 後編

ライトニング・ネットワークなどの先端技術を研究されている今井 崇也さんの後半のインタビューです。

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仮想通貨(暗号資産)遍歴 第5回-今井崇也さん- 後編

仮想通貨(暗号資産)遍歴 第5回(後編)

(前編)



-- (続)ライトニング・ネットワークはまだ早いでしょうが、ビットコインやブロックチェーンをまだ買ったことない、使ったことがないという方々に、一言お願いします。

ちょっとライトニング・ネットワークに話が戻るのですが、1年前、去年の9月29・30日に、日本初のライトニング・ネットワークのハッカソン(hackathon=hack+marathon)を私が開催したんです。『オフチェーンアカデミーハックデー』として。日本は、こういったイベントがまだ少なくて、ようやく第1回が開催できたのが去年なんです。こういったイベントを増やしていきたいなと思っています。今は一時期に比べて仮想通貨(暗号資産)/ブロックチェーンに興味を持っている人が減ってしまっていますが、また増えていくと思っています。この業界にどんどん色々な人が入ってくるのは良いことなのですが、そうなると当然、色々な研究が行われるようになると思うので、自分もアンテナを張って先にどんどん進んでいかないと、置いていかれる恐れもあります。

あとステーブルコインについては、まだ法律の解釈など色々と問題はありますが、僕は何かしら残るだろうと思っています。ホントに『仮想通貨』(暗号資産)ってものは切ったら切っただけ新しいものが色々と出てくるので、「どれが残るのか?残らないのか?」というよりは、利用対象となる一般の人からするとやっぱり「値動きがなくて、使いやすい」っていうのが必要だと思います。そういう人たちにとって、ステーブルコインというのは、より便利で貢献できるようになると思います。

仮想通貨(暗号資産)は趣味レベルでちゃちゃっと作れるって最高の環境なのですが、日本以外も含めて多くの人が使い始めてくると、法律の枠組みを定めないと詐欺をしやすいという欠点もありますね。(笑)

いわゆる法定通貨/企業主体の世界とビットコイン/ブロックチェーンの世界、この二つが接しているところにできたのが仮想通貨(暗号資産)取引所だと思うんです。ステーブルコインやセキュリティトークンなども恐らく接するところで、片方から片方に入ってくるためのパイプラインとして、いくつか出てくると思います。この先は恐らく、いわゆる既存の『仮想通貨(暗号資産)取引所』から、新しく『DEX(分散型取引所)』も登場して、同じことが起こっていくと思っています。それはつまり、「通貨/資産をいちいち自分でコントロールしたくない」という人は、いわゆる既存の『仮想通貨(暗号資産)取引所(=事業者)』に置いて(預けて)おくでしょうし、「自分でコントロールしたい」という人は『DEX(分散型取引所)』なり『オフチェーンのDEX』を使うことになるでしょう。ここも同じく、共存していくんじゃないかなと僕は思いますね。
ちなみに、ライトニング・ネットワークも複数のブロックチェーンをまたがって動くようにできるので、ライトニング・ネットワーク上の『DEX(分散型取引所)』も作れるようになります。

--世代交代となり、ライトニング・ネットワークといった『セカンドレイヤー』が主流になってくると、『メインレイヤー』であるブロックチェーンの存在意義は薄れていきますか?

僕はそうは思わないですね。セカンドレイヤーであるオフチェーンは、オンチェーンであるブロックチェーン上に置かれている担保として、お金を強制的に執行/実行できるというのが重要なんです。例えばペイメントチャネルって、理論的にはちゃんと安定して継続的に動くはずなんです。しかし、実際はハードディスクとかメモリといった物理的な問題が起こるので、バックアップを取らないといけません。従って、定期的にオンチェーン/ブロックチェーンに書き込んでいくっていうのが必要になると思っています。ユーザーには見えないように作り込むと思いますけれども。そういう意味で、担保の置き場所であるブロックチェーンがないと困るため、細っていくことはないと思います。存在意義は逆に強まると思います。

前に「わかりづらい」と言われたことがあるのですが、お話しさせてください。(笑)
ブロックチェーンとライトニング・ネットワークの関係って、裁判所と(紙の)契約書との『対応関係』になっていると思っています。先ほどの「ブロックチェーンの存在意義は薄れていくか?」っていう質問は、「この世界に裁判所なくてもいいよね」って言っているのと同じだと思うんです。みんなが契約書で契約を交わすわけですけれども、その時に相手がちゃんとしてくれたら、何事もないです。「何事もなければ大丈夫」です。けれども、現実的には「この契約書に書いてあることは…」って判断する人、場所が必要なんです。なので、裁判所はないといけないですし、なくならないです。

『契約書』というのは単に『紙切れ』なので、紙だけで裁判所がなく強制執行が働かなければ、紙をビリビリと破ればいいわけですよ。(笑) コピー取っていて片方は残りますけど、「知らねーよ」って言って契約を破棄することもあり得るわけですよね。まぁ、実際には裁判所の判決があって「資産没収」「差し押さえ」とかになるので、そんなことできませんけれども。

それと同じことが、オフチェーンとオンチェーン/ブロックチェーンに言えると思うのです。オフチェーンの取引を安全に執行/実行できるのは、「いつでもペナルティを実行できる」というのを常に相手に「押し付ける」というか「提示し続けている」からで、しかも取引を開始する際に、それに応じなければ、そもそも取引を始めないという風にしています。まあペナルティの『強制執行力』というとファイナリティの話も出てきますが、チャネルを開くときにブロックチェーンごとに十分な承認数を確保しておくことで、事実上不正に対してペナルティを課すことができます。
(注: 記事中に「チャネル」と表記されているところは基本的に「ペイメントチャネル」を指します)

例えば先ほどの『契約書』って、人によっては「まぁいいか」と言って契約書なしでも取引を始めてしまうこともあります。けれども、オンチェーン/ブロックチェーンの場合は、取引を始めるにあたって「契約書を作らないと絶対無理」なんです。しかも、それを『ブロックチェーン』という形の『強制執行力』を持って、高速に契約を結ぶことができるというすごさです。なので、ブロックチェーンは、すごく新しいことをやっているのではなくて、基本的には現実の世界にあるものを書き直しただけなんです。けれども、それをすごくシンプルにすることによって、先ほど(前編)の『車の間の取引』のように、相手が誰か関係なくお金を送ってしまうことが可能となります。
オンチェーン/ブロックチェーンとオフチェーン/セカンドレイヤーとの関係は、こういう関係な気がしますね。

あと最近、『情報銀行』の話がありますが、これも『DEX』版みたいなのができるのではないかと思っています。つまり、取引所に該当する『情報銀行』を介すのではなく、売り手と買い手により直接取引が行われるということです。
例えば、自分が歩いた情報とかを『情報銀行』に預けて金利を受け取るということができるんですけど、金利を決めるのは『情報銀行』なわけですよ。でも、ある程度まとまった自分のデータを、高値で買ってくれるところが出てくると思うんです。直接そこにデータと現金とを分配すればいいと思っています。確かに『情報銀行』みたいな組織があった方がいい場合もあります。例えば、データとお金の不可分交換(アトミックスワップ)や個人がデータ管理を企業に委託できるとか。ここで、非中央集権的にゼロ知識条件付き支払い(ZKCP: Zero Knowledge Contingent Payment)とか、マルチパーティ秘密計算技術または差分プライバシー技術が使えたら面白いですが、まあ組織や技術的にどうするかは置いておいて。ただ個人が持っているスマホに勝手にお金を稼いでもらう、自動的に高値で売ってくれるという仕組みも、やっぱりあった方がいいと思っています。まあデータ価格情報提供サービスなどが必要なので、完全に「企業なし」は難しいとは思いますが。

これも先ほどの「手数料が安くなることで実行できる」かつ、機械がやり取りを始めると、全世界での取引量が、めちゃめちゃ多くなります。クレジットカードは聞くところによると、秒間最大100万取引ぐらいらしいのですが、たぶん機械同士だと秒間1億取引ぐらいは余裕で10億ぐらいはいくと思うんです。
秒間で10億取引を実行できる仕組みって、クレジットカード会社が何社集まったらできるのか?と。(笑)

先日、米Akamai Technologies社が、「ブロックチェーン技術を採用すれば、秒間100万件は可能であり、拡張機能により1,000万件も夢ではない」という記事を見ましたが、今のところのビットコインの秒間7取引という処理性能でライトニング・ネットワークのノード上限は1000万ノード程度のP2Pネットワークだと個人的に試算しているので、オフチェーンでは秒間10億取引ぐらいはいくと思うんですよね。けど、株式取引等ボットはさておき、まだリアル社会での機械対機械の世界が来ているわけではないので、来年すぐにどうこうなるって話ではないですけどね。

--5G(第5世代移動通信システム)の時代が来る頃には、そういう世界が現実的になっているんじゃないですかね。先ほどの車の話し、Car to Carができていきそうですね。(前編を参照)


ライトニング・ネットワークが面白いところは、中央のサーバにいちいちお伺い立てず、しかもオンチェーンのような承認待ちがないことなんです。直接、個々で通信し合うので、世界で同時に複数の取引が中央サーバを経由することなく出来るようになるんです。そうすると、秒間1億取引を実行できるようになると思っています。もうちょっと頑張れば、秒間10億取引ぐらい多分いけると思うのですが、ネットワークが後どのくらい大きくなるかですね。前に試算したことがあるのですが、秒間1億取引しようと思うと、ペイメントチャネルの寿命を1年ぐらいに延ばさないといけないんです。

1年ぐらい安定的に維持できるようにしないといけない。1年に2回だけブロックチェーンに書き込むけど、それ以外は書き込まなくても安全に実行できるという世界になると、秒間1億取引実行できる。秒間10億になると、取引データのサイズ軽量化やeltoo(ライトニング・ネットワークを構成する方法のひとつ)などによる保存データの軽量化、予測モデル、処理並列化などによる高速化、他の複数ブロックチェーンともライトニング・ネットワークで繋いで担保を置くブロックチェーンを分散するとか、チャネルバックアップとその差分をできる限りコンパクトに持っておいて、DB(データベース)のトランザクションログみたいに、仮にチャネルが壊れてもチャネル状態の復旧をできるようにするとか、もっと安全性を高くする仕組みがもうちょっと必要ですね。今のところ、秒間10億取引を実行できる仕組みは、ライトニング・ネットワーク、パブリックなオフ・チェーン技術ぐらいしか思いつかないです…なかなか難しくないですか?他にないと思うんですよね。まあライトニング・ネットワークに参加するお金などのインセンティブをどう与えるかが問題なんですけど、すでにその辺をやっている人たちもいますし。

あと、この背景にはストレージとネットワークのデータ通信速度の話があります。レイテンシ(通信が始まるまでの遅延時間)など他の指標もありますし通信条件にもよりますが、ハードディスクは毎秒100MBくらい、SSD(NvMe)は毎秒2GBくらい、5Gは毎秒1GBくらいのデータ通信速度です。メモリは毎秒20-30GBくらいでしょうか。すぐそこのハードディスクにアクセスするよりは遠くのマシンにアクセスした方が速いわけです。そうなると、より大規模なネットワークを5Gまたは次々世代通信規格で形成して並列処理させた方が全体としての処理能力は高くなります。Hadoop(大規模分散処理システム)みたいな。量子コンピュータの話もありますが、少なくとも一旦はムーアの法則が通信ネットワークによる並列化を意味するようにもなるのではと思っています。企業はもちろんサーバを増強するでしょうが、インセンティブの与え方によってはP2Pネットワークの成長速度の方が速いのではと思っています。それでさっきのパブリックなオフチェーン技術であるライトニング・ネットワークの取引処理速度の話に繋がるわけです。

--最後になりますが、今井さんにとってビットコイン/ブロックチェーンとは何ですか?

ビットコイン/ブロックチェーンの世界は、今までと全然違う経済システムというか生態系が目の前で動いている、手で触れそうな距離で動いている感じがしています。僕は勝手に企業レベルの資本主義から個人レベルの資本主義へだと思ってますが (笑)
ビットコイン/ブロックチェーンによって、今の経済システムと完全に同じものを作るというのはあり得ないと思っています。今の仕組みはやはりそれなりに最適化されているわけなので、それはそれでいいんです。しかし、今までできなかったもの、ニッチなものっていうのを広げていく、ビットコイン/ブロックチェーンの世界は、今とは別のだだっ広い荒野とでも言いますか、まだ開拓されていない場所みたいなものだと思っています。

--私がこの世界に飛び込んだちょうど3年前は、「すべてが仮想通貨/ブロックチェーンに置き換わっていく」という話をよく聞きましたが、最近は、既存のシステムはそれはそれで残り、仮想通貨/ブロックチェーンが新しい世界を作っていくという風に、穏やかになったような気がします。インターネットでどんなに便利になっても、未だにファクシミリが使われているように(笑)

僕は2016年頃から「どちらかに偏り過ぎることはない」と思っていたんです。それってなかなか難しくて、インターネットの歴史を見てもそうですが、新しいものが産まれてくるときって必ず、本能的にくすぐられるんだけどほとんど誰も見ていないところから産まれてくるわけですよね。「確かに、おもしろいかもしれないけど、誰も使わないでしょ」ってとこから始まったりするので、共存はしていくと思っています。先ほどの、人と技術の話も、どちらかがどちらかを駆逐するという話ではなくて、やっぱり「どうやって、相手と付き合っていくのか」っていう話になると思うんです。それを考えていく中で、一つの解答として1銭とかの「小さいお金」っていうのが何か貢献できるんじゃないかなと思っています。

--本日はありがとうございました。このインタビューは過去を振り返る企画なのですが、今回は未来の話もお聞きできましたので長時間となりました。普段聞くことのできない貴重なお話で私だけ聞くのはもったいないので、前後半に分けて読者の皆様にお届け致します。引き続き更なるご活躍を楽しみにしています。

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